センターの活動 Work

Work Report 活動報告

教育と啓発活動の推進

「ダイバーシティ」だけでなく、その先にある「共創」までを大切にしたい

2022年4月、多様性をもつ一人一人が、伸び伸びとその個性と能力を発揮できるキャンパスづくりのため、流通経済大学ダイバーシティ共創センターが開設されました。昨年度副センター長を務めた西機 真(にしき まこと)先生にお話を伺いました。

「ダイバーシティ『共創』センター」と名づけた理由

私は流通経済大学に来る以前、筑波大学で副将としてラグビーをプレーした後、ラグビー文化やコミュニティを学ぶため、アイルランドやニュージーランドに渡って数年を過ごしました。ラグビーを通じて、数多くの人種・国籍の方、LGBTQ+の方、障がいのある選手にも出会い、海外では自分がマイノリティになる経験も沢山ありました。そうして気づいたのは、「自分と似たような人よりも、全く違う個性を持った人たちと共に何かをすることの方がずっと面白い」ということ。多様な国籍、価値観の人と一緒にラグビーをプレイしたり、仕事をすることで、今まで知ることのできなかった考え方やものの見方を知り、私の世界はどんどん広がっていきました。

私が流通経済大学に赴任して15年目を迎えた2021年、翌年に開設されるセンターの副センター長としてお声がけいただいた際、センターとしてどのようなことに取り組んでいきたいか考える中で、一つの疑問が浮かんできました。「世の中では『ダイバーシティの推進』が叫ばれるようになったけど、その目的はなんだろう?」ということです。自分なりに、ラグビーを通じたそれまでの経験と照らし合わせて気づいたのは、「大切なことはダイバーシティの際になる」ということです。そもそも、大学は多様な人が集まるダイバーシティ溢れる場所であるはずです。ところがそれだけでは新しい価値は生まれにくいと感じています。キャンパスに不足しているのは、一人ひとりの個性にお互いが気づき、認め合うことです。それは共に何かをやること、つまり共創によって実現できることです。

多様な立場、価値観の人と共に取り組むことによって生み出されるものの方が、「ダイバーシティ」そのものよりも、もっと価値があります。自分だけでは気づけない新しい価値を生み出すためには、「ダイバーシティ」と「共創」の両方が必須です。だからこそ、センターでは、「ダイバーシティの推進」そのものではなく、多様な人と共に学び合ったり、何かを創るプロセスの方をより大切にしたいという想いがありました。そこで「ダイバーシティセンター」でも「共創センター」でもない、「ダイバーシティ共創センター」という名称を提案しました。

私はもともと大阪の出身で、大学で筑波にやってきて大阪以外の人たちと学生生活を送るだけでそれはすごく新鮮な経験で、そのような小さなこと一つひとつの出会いが、自分という人間をつくってきたと感じています。私にとってダイバーシティとは、他の誰かのためのものである以前に、自分のために必要なものなんです。

ダイバーシティが共創する価値のインパクトを実感したラグビーW杯

センターでは、多様な学生・教職員、地域の人たち等、立場や視点が異なる参加者が集い、意見を交わし未来にむけてアクションを起こす「共創セッション」を開催しています。私がラグビーW杯の日本開催に向けた準備に携わっていた際に出会い、知ることとなったこれは「フューチャーセッション」という手法を採用しています。

2019年に日本でラグビーW杯が開催されたのは記憶に新しいですが、私も流通経済大学で教員を務める傍ら、開催前数年をかけてその準備に携わっていました。ラグビーを介して、ラグビーに関することも、そうでないことについても世界観が広がる経験を少しでも多くの人にしてもらいたいと思いました。また、自分がラグビーのお陰で海外でいろんなことを学ばせていただいたこともあり、W杯の成功を通じてその恩返しをしたいという考えもありました。

2019年のラグビーW杯や2020年のオリンピックにおいて、業界でしきりに言われるようになったのが、「レガシー」という言葉です。W杯を通じて、文化やビジネス、地域や教育など多様なフィールドにおいて、新しい価値を創造しなければという機運が高まりました。そしてなんと私は2019年ラグビーW杯のレガシーコーディネーターに就任することになります。レガシーを残すということは、多くの人の力を集め、まさに「共創すること」が必要です。ところが、当時の日本ラグビー界にとって、それはとても難しいことのように感じられました。

というのも、日本のラグビー界は、自分たちのことを自ら「ラグビー村」と呼ぶほど、内部のつながりが強固で、それゆえ地域の人々や海外の組織を含めた外部とのつながりはとても弱いという状況だったからです。とにかく、何かしなくてはとリサーチをしていて出会ったのが、「フューチャーセッション」という手法だったんです。ラグビー界の人だけでなく、ラグビーをテーマに多様な立場や価値観をもった人たちが集まる場、「フューチャーセッション」という場をつくることによって、微力ではあるかもしれないでれど日本のスポーツ界に変化をもたらし、恩返しができるかもしれないと思いました。

私は早速、フューチャーセッションの第一人者である株式会社フューチャーセッションズに連絡を取り、自身もセッションのファシリテートの仕方を学ばせていただきながら、地域でラグビーのレガシーを創るため、W杯の開催都市を中心に、日本各地でラグビーの関係者を招いたフューチャーセッションを開催しました。

このセッションがきっかけで、釜石のまちづくりプロジェクトや、福岡の中学生の交流イベント「アジアラグビー交流フェスタ」が開催されるなど、いくつかの企画が立ち上がりました。ラグビーをきっかけに起こった企画に参画していたのは、ラグビーが好きなお医者さんや、地元企業の社長さんや、市民団体の人や、震災復興に情熱のある人、中には「ラグビーは全然わからないけど、W杯で国際交流がしたい!」という想いの人などもいて、ラグビーの当事者ではない人の方が多かった。どのプロジェクトもラグビー界主導では決してできなかったと思います。まさに多様な人たちが集まって起こる相乗効果や、新しいものが創りだされる瞬間を目のあたりにしたわけです。

世界各国の政府、自治体、企業、ラグビーを応援してくださる方々。振り返ってみると、W杯そのものも多くの人たちに支えられ、ラグビー界の人たちだけで成り立っていたわけではありませんでした。W杯は私にとって、文化的背景も目的意識も様々な人が集まり創り出される価値の大きさについて、身をもって体感する出来事でした。

ラグビーも共創セッションも、多様性に富んでいるほど面白い

センターができる1年前の2021年4月、流通経済大学は大事に守り継承してきた精神を核に、時代に対応した新しい試みに挑戦していくためのビジョン「Reborn RKU Vision」を掲げました。センターに関わる者としてこれから変わろうとしている流通経済大学でできることは何かと考えた時に、W杯の時と同じように、「多様な人と共創すること」=フューチャーセッションを取り入れることができるのではないかとすぐに思い至りました。

私が大学に来てから16年が経ちますが、たくさんの可能性を持ちながらそれらが開花されずに、やれることの限界を自ら決めてしまい、「無理、出来ない」と夢をあきらめてしまう学生を、数多く見てきました。それは単にその学生のせいではなく、置かれている環境が少なからず影響を及ぼしていると思っています。環境を変えさえすれば、その人の個性や力が新たに引き出されるということはよくあることですし、誰にでもあてはまることです。そしてその環境が多様性に富んでいればいるほど、気づきは多くなります。
ラグビーにもポジションがたくさんあり、チームの人数もスポーツの中では多い方。体が大きくて力が強い人間もいれば、小柄で足の速い人間もいます。頭が切れる人もいれば、あまり考えず直感で動くタイプの人もいます。多様性のあるチームでプレイすることはやはり魅力的ですし、教えてもらうことが多いです。ダイバーシティ共創センターもそんなラグビーチームのような面白い場になることを願っています。

自らの内なる可能性に気づくきっかけを少しでも多くの学生に与えたいという思いで、流通経済大学では日々取り組んできました。今までは自分の学部やゼミ、ラグビー部の学生たちに向けてしか話をする機会がなかったのが、ダイバーシティ共創センターの設置によって、学部やキャンパス、肩書きや所属組織などあらゆるセクションを超えたダイバーシティな環境で共創に取り組めるチャンスをいただいたと思い、嬉しく感じています。
共創セッションを学内で始めて、まだ間もないですが、少しずつ参加者の気持ちの変化を感じることもある一方で、まだまだ時間が必要だと感じている部分もあります。

大好きな「ハブ」のような存在を、キャンパス内にもつくりたい

センターとして、キャンパスの一人ひとりが自らの個性に気づいて活かすきっかけを与えられることが理想です。そのためには、センターが一方的に何かを「してあげる」のではなく、「センターも一緒になって取り組む」というスタンスが大切だと思っています。センターに集まる全員が一緒に楽しみ、喜び、発見し、時には悩んだり失敗したり。そういう経験を通して個性を認め合い、共創できる場を目指していきたいです。

私は、学生一人ひとりがやりたいことを実現することに喜びややりがいを感じてずっと大学で過ごしてきました。一人ひとりの夢の実現のため、自分ができることを探して、取り組んでいきたいと思っています。

海外経験の中で、私が最もお気に入りだった場所が、「ハブ」と呼ばれる場所です。「ハブ」とは性別、年齢、国籍、職業、考えも様々な人々が集まってお酒を飲む場所のことです。アイルランドにいた時は、ラグビーの試合が終わってハブに行くと、おじいちゃんやおばあちゃん、会社の社長さんや、農業で働く人など本当に様々な人たちが集まっていて、代わる代わる自分に声をかけてくれました。そこでラグビーの話をしたり、その国の文化に関する話などラグビー以外のことを教えてもらうこともありました。日本における「ハブ」のイメージとは大分異なりますが、ハブの語源は「Public House」いわば「お酒の飲める公民館」なんです。自分にとっては出会いから世界が広がる場所でした。今ではもっとも自分がくつろげる場所の一つでもあります。

だから、大学内にハブのような空間をつくりたい!というのが私の本音です。お酒が飲める場所であるかどうかは別ですが(笑)。価値観も立場も様々な人たちが集まって、ぺちゃくちゃと好きなことをしゃべって、「あれやろう、これやろう」とワクワクしながら新しいアクションを起こすことができる場所です。
子どもの遊びやスポーツにおいて、三つの間、つまり「仲間、空間、時間」が必要で、これらによって、子どもたちの身体と心の健康が守られ、成長につながるといいます。これは大人にとっても同じことで、それらすべてを生み出してくれる魅力がハブにはあります。人を健幸に成長させる三つの間を生み出すため、もう一つの間、「手間」をじっくりかけながらダイバーシティ共創センターの一員として取り組んでいきたいと思います。

2023.04.17

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