センターの活動 Work

Work Report 活動報告

教育と啓発活動の推進

発達障がいのある子どもたちが可能性と世界を広げていく社会を目指す

2022年11月、流通経済大学ダイバーシティ共創センターでは、発達障がいのある子どもと大学生によるデイキャンプを開催しました。企画の発案から開催までを担当したのは、小児科医でありスポーツ健康科学部の准教授を務める金子 衣野(かねこ その)先生。開催の経緯や活動に込めた想いについてお話を伺いました。

子どもや学生の個性を伸ばし、世界を広げるデイキャンプを

流通経済大学にお声がけをいただくまでは、小児科医として発達障がいのある子どもなどを現場で診ていました。私は、やってみたいと思ったらあまり深く考えずにすぐに飛び込むタイプです。現場診察がとても好きだったので、自分が教員として教える立場に立つことは全く想像もしていませんでしたが、新しい自分の可能性に気づけるかもしれない、と思いチャレンジすることにしました。こういった経緯だったので、教員に就いた当初は、大学での研究や活動内容について完全に決めていた訳ではありませんでした。

そのような状況下、就任当初から大学内でやりたいと思っていることが1つだけありました。それは「発達障がいのある子どものデイキャンプ」です。「診療現場で出会う子どもたちに、社会で役立つ多様な経験をしてもらいたい、大学でキャンプを行ったらまた世界が広がるのではないか?」という想いからでした。

一方で、大学へ着任した私は、授業で学生と話すようになって気づいたことがありました。それは、「能力があるのに、自身を低く評価している学生が多い」ということです。スポーツ健康学部の学生は、スポーツが大好きな一方で、勉強に苦手意識を感じて、「自分はダメだ」と悩んでいる子が少なからず見受けられました。一人ひとりとよく話してみると、勉強が苦手なのではなく、そのやり方を知らないだけなのかもしれないと直感的に思いました。

「どのように苦手なところをカバーして、自分の才能を伸ばしていけるのか。これを一緒に考えることができれば学生たちも自信を持ってもっと活躍できるはず」

発達障がいの診療現場では、その子の個性が伸び伸びと育まれるよう、子どもが困っていることについて解決策を一緒に考えることもあります。学生たちと診療現場の子どもたちの姿がオーバーラップした時、「学生と一緒にデイキャンプをすれば、新しい学びと自信が得られるかもしれない」と思いつきました。

医療現場では発達障がいへの認知が高いものの、大学内となればまだまだ認知は低い状況。 思い立ったら即行動の私でも、デイキャンプをやりたいと心の中で思いながら、何から始めれば良いか分からない状況が続いていました。

一人ではできなかったことがセンターと出会って実現

デイキャンプをやりたいと考え続けていた矢先、ダイバーシティ共創センター長に就かれたばかりの三木先生と、学内の仕事でご一緒する機会がありました。三木先生と世間話をしていたときに、ふと「発達障がいのある子どもと学生のデイキャンプをやりたい」とお話したんです。すると、三木先生がとても共感を示してくださり「是非やりましょう」と声をかけてくださいました。一人では無理かもしれない、と思っていたところでアドバイスをいただき、向かうべき方向が見えてきた瞬間でした。

デイキャンプでは、学生の得意分野を活かし、体を動かすミニスポーツやミニゲームを子どもたちと行うことに決めました。デイキャンプを行う前段階として、まずは学内の方々に発達障がいについて正しく理解していただくため、講師の方を招いて講演会を行いました。学生から学内外の教育関係者の方まで幅広い方がご参加くださり、手応えを感じることもできました。

デイキャンプの準備にあたり、学生たちにはゲームやスポーツの内容を主に考えてもらいました。初めての試みなので、当初は積極的なアイデアが出てこず、上手くいかないこともありました。ところが、キャンプの開催が近づいてくると「このままではまずい!」とスイッチが入る学生が増えてきて、こうすると楽しいのではないか、こうした方がもっと良くなるのではないか、と沢山のアイデアが出てきました。中には子どもたちと年代の近い学生ならではの意見に私が気付かされる場面もあり、学生たちの瞬発力や想像力、潜在的な力を垣間見ることができました。

キャンプ当日は子どもたちと体を動かすプログラムのほか、保護者の方と懇談会を行いました。懇談会では、情報を伝えるよりも保護者の方の悩み事などを聞くと決め、実施しました。私も色々な話を聞いて勉強になりましたし、保護者の方からも、「悩みを共有することで少し気持ちが楽になった」とお言葉をいただくことができました。

医療現場では発達障がいの子どもを対象としたデイキャンプにはよく関わっていたのですが、大学で行ったことはありませんでした。大学の体育館などは大人向けの設備なので、子どもが使いやすいよう工夫したものの、きちんと楽しんでもらえるかどうか不安でした。ところが実際には、「こんなに広い場所で大人の設備をつかって遊んだのは初めて!」と、楽しそうに動き回る子どもの姿も見られました。思わぬところでも新たな世界の体験につながっていたようです。

自分の長所を認めてもらえた経験が私の人生を変えた

私が医師になることを決意したのは高校生の頃のことで、誰かのために一生懸命働き、役に立ちたいと思ったからです。

ところが、それまでの自分といえば「誰かのために何かをする」という考えすらない子どもでした。私は小学校から高校までの期間、遠距離通学をしていて、いつも学校への往復で疲れ切っていました。そのせいで授業中はいつもボーッとしているし、宿題など忘れ物の常習犯。成績もイマイチで、友達にも「衣野ちゃんって勉強苦手だよね」と言われてしまう始末でした。周りに遅れをとっているようで、私はいつも心のどこかに劣等感を抱いていました。

でも、通学を続けるうち、だんだん体力がついて、自分にも心の余裕と時間が生まれました。ある時、「いつもはやらない宿題をやってみようかな?」とふと思って取り組んでみました。授業に臨んで答え合わせをしてみたら全問正解。「もしかして、やったらできるのかも?」と味をしめた私は、次の授業で、手を挙げて先生の問いに答えてみました。先生は、今まで一度も挙手したことのなかった私の行動に驚きながらも「よくできましたね。」と私のことを褒めてくれました。その瞬間は今でもよく覚えています。

「なんだ、私もやったらできるんだ!」

自分の頑張りを認めてもらえたのが本当に嬉しくて、それ以来どんなことも挑戦して頑張れるようになりました。「自分はダメだ」と思っていた私を救ってくれた一言でした。

振り返ってみると、自分の良いところを見つけてもらい認めてもらうことは当時の自分にとってとても必要だったのだと思います。それはどんな子どもにとっても重要なことなのだと実体験をもって感じています。

「自分も人の役に立てるかもしれない」と感じることのできたこの出来事が、医師を目指す原体験になっているかもしれません。高校卒業後は医大、研修医の道に進み、子どもが好きだったので迷わず小児科を選びました。

医師として働き始めてからは本当に大変でした!小児科は当直勤務もありますし、特に育児との両立に悩むことが多々ありました。同じく子育て中の先輩や周りの方々に助けられ、時に協力しながらなんとか続けられています。接している子どもたちが元気になった姿を見せてくれたり、楽しそうに話をしてくれるのが本当に嬉しくて、小児科医になって本当によかったと思います。

発達障がいのある子が伸び伸びと活躍できる社会を目指して

たくさんの子どもたちを診ている中で、

発達障がいの子を診る機会も多くありました。「どんな子なんだろう?」と観察したり、相手の気持ちを理解しようと話をしてみたり。本人の困りごとを聞いて、「こういう風にしてみない?」と一緒に考えることがすごく楽しくて。 子どもたちに教えてもらうこともたくさんあります。

例えば、登山好きの私が、山の中でクマと鉢合わせした話をした時のこと。多くの人は「怖かったね」「無事でよかったね」と言ってくれました。一方で、発達障がいのある子どもに話したら、「当たり前だよ!クマだって人間になかなか出会わないんだから、すごく驚いたに決まってるよ!」と言われたんです。「確かに、そういう考え方もあるのか」と、ハッとさせられました。だからクマに出会っても大丈夫という訳ではないのですが(笑)。

発達障がいのある子どもたちは、こういった新しい視点をいつも与えてくれて、私自身の世界観が広がっていくのがとても楽しいです。子どもたちの長所を見ていたら自分も良い影響を受けていて、いつの間にか発達障がいの子を診る機会がどんどん増えていきました。

ダイバーシティ共創センターに出会って、一人ひとり課題意識の切り口は違っても、多様性と共存の重要性に気づき、自分と同じ考えを持つ人が多いことに気づくことができました。

一方で、センターについて「何をしているところなのか分からない」という声がまだまだあります。今後は、情報発信を続けて、より多くの方に多様性について正しく理解をしてもらうことが必要です。これは、発達障がいに関しても同じです。

「発達障がい」と聞くと、「障がい」という言葉の印象を強く受けがちですが、一人ひとり苦手なこともある一方で、とても秀でた才能を持っています。その子たちの良い所を周りが見つけ、伸び伸びと力を発揮する場を提供できる社会になることを願っています。

誰かの良い所を見つけることって大変ですよね。難しいけれど、その人生を変えるくらい大きな力を持っていると私は思います。私も子育ての中で、つい自分の子どもたちの悪い所ばかり見てガミガミと叱っては、「こういう良い所もあったのだから、言い方を変えればよかったな」と反省して試行錯誤する毎日です。

まだセンターでのデイキャンプは1回目を終えたばかり。参加した子どもや学生が、お互いの良い所を見つけたり、自分の良い所に気づけるメニューをもっと増やそうと考えています。子どもたちや学生には、上手くいくことも、時には失敗も含めて沢山の経験をしてもらえたらとても嬉しいですね。

2023.04.17

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