センターの活動 Work

Work Report 活動報告

教育と啓発活動の推進

支援する側もされる側も存在しない。みんな誰かに救われている

2022年4月、多様性をもつ一人ひとりが、伸び伸びとその個性と能力を発揮できるキャンパスづくりのため、流通経済大学ダイバーシティ共創センターが開設されました。昨年度センター長を務めた三木 ひろみ(みき ひろみ)先生にお話を伺いました。

自分なりの視点で取り組んで変化を起こし、理解者を増やす

2017年に流通経済大学に着任、2021年から副学長としての業務も行っています。スポーツ健康科学部の教授として授業やゼミも担当しており、昨日も学生の就活の相談に乗って、エントリーシートを見るなどしていたら何時間も経っていました。「副学長なのに学生のエントリーシートを見るんですか」と驚かれることもありますが、教員として当たり前のことで、そういうごく一般的な教員の私が、この大学では副学長の仕事をしている、というだけのことです。

以前、筑波大学に勤めていたときには、ダイバーシティに関するセクションの部門長をしていました。この部門を担当するきっかけになったのが、私の行ったキャリア教育の授業でした。
その当時は中学・高校に「総合的な学習の時間」の授業が必須となり、私の受け持っていた大学の教職課程にも「総合的な学習の時間を指導するための授業」が組み込まれていました。ところが、その授業は、教えるべき内容は決まっておらず、授業づくりも教員に委ねられているため、教職科目として何を教えるべきか、他の先生方も暗中模索の状況でした。そこで私は、「総合的な学習の時間を指導するための授業」を、当時私が抱いていた違和感を解決するための一助になる授業にしよう、と考えたんです。

「当時私が抱いていた違和感」というのは、スポーツの勉強をしている学生たちのキャリア選択に関するものでした。みんな、スポーツに関する仕事で食べていきたいと考えているけど、スポーツに関われる仕事は世間的にも数が少ないから就職が難しい。結局スポーツに関係のない仕事を手当たり次第に探して就職してみたら、やっぱり合わなかった、という例がとても多かったんです。私は、その現状を見て学生たちがもっと自身のキャリアについて考える機会をもつべきだと感じました。一見スポーツに関係がない仕事でも、スポーツから学んだことを活かせるフィールドは世の中には沢山あります。そこで、「総合的な学習の時間を指導するための授業」を、学生自身のキャリアについて考える授業にしてみました。その経験があれば、学生が教員になった時に、教え子たちが進路を考えるための時間として「総合的な学習の時間」を有効に使うことができます。
当時、大学ではキャリア教育は殆ど行われておらず、「大学は専門的な知識を学ぶ場なのに、どうして就職のことを学ばなければいけないのか」という空気すらありました。一方で、私の授業が回を重ねるごとに学内の就職支援センターを訪ねる学生が増え、「とても良い取り組みですね、きっと学生たちの勉強になると思います」と、私の授業に理解を示してくれる方も学内に増えました。

自分なりの視点で、できることにコツコツ取り組んでいたら、「学内にダイバーシティを推進するセクションができるから、部門長をお願いしたい」とお声かけいただきました。女性やLGBTQ+の方々の活躍を推進することが目的のセクションなのですが、自分は女性活躍のために何かをやっていた訳でもありません。声をかけていただいたこと自体、とても意外でした。

私の「取り残された」経験が、ダイバーシティ領域に携わるきっかけとなった

前任の大学で、ダイバーシティの部門長として声がかかったのは意外でしたが、お引き受けしようと思った理由は、もともと自分の研究していたことが活かせると感じたからです。

私は、社会心理学をバックグラウンドに、あらゆる場所で生まれるステレオタイプや偏見を実験的に検証することに取り組んでいました。例えば、相手をステレオタイプに当てはめやすい状況や、一人の個人としてみられるようになる条件を実験的に証明する、といった内容です。スポーツ選手や能力のレベルなど多岐にわたる枠組みの影響を検証するうちに分かってきたのは、「性別、障がいの有無、LGBTQ+かどうかなどの枠組みだけでなく、人間はどのような人間に対しても『この人はこういう人だ』という枠組みにはめて見てしまう」ということでした。偏見やステレオタイプは誰に対しても存在するんです。でも、残念ながらこのことは研究者の間でも理解されにくく、「女性だから、ステレオタイプや偏見の研究をしているんでしょう」とか、「男性に不満があってこの研究をしているんですか」と言われることもありました。研究内容が理解されない中、無意識の偏見を乗り越える意識と、人を個人として捉えることを促す条件を探る研究がだんだんとできない環境になってしまって。そこからは別のご縁もあり、教育課程の講義を受け持つなど、研究領域もシフトしていったのですが、取り残されてしまったような気持ちもありました。

だからこそ、部門長の話があった時に、自分が元来研究していたことをもう一度活かすチャンスだと捉え、お引き受けすることにしました。

部門長として前任の大学で最後に取り組んだのが、様々な年代やキャリアをもつ女性研究者のストーリーを、インタビューをもとに一つの冊子にまとめるというものでした。制作過程で気づいたのは、女性研究者として衝突した壁や、その乗り越え方、乗り越える過程で得たものも全然違うということ。そこに存在したのは、千差万別の魅力的で輝かしい人生のストーリーばかりでした。同じ女性研究者という偶性だとしても、「女性」「研究者」とひとくくりにはできないのだということを完成した冊子が証明していました。人間は千差万別だからこそ、「女性」「男性」などと簡単な言葉ではひとくくりに語ることはできません。私が研究してきて、なかなか理解されなかったことが、色々な取り組みの中で少しずつ形になった結果、「自分の考えは、やっぱり間違ってなかった」と思えた瞬間でした。研究がしたくて大学教員になったので、自分が研究していたことが実際の仕事に役立っていると感じられたのは、本当に嬉しい出来事でした。

「誰かに救われている」ことに気づくことがダイバーシティ理解への第一歩

ダイバーシティ共創センターが開設されて、最も苦労していることは「ダイバーシティ」とは何かを理解してもらうことです。今は広く理解していただけるよう、前任の大学にいた時と同様、コツコツとやれることに取り組んでいる段階です。

「ダイバーシティ」と聞くと、「誰かのために、自分ができることを支援してあげよう」という議論になりがちですが、そうではありません。一方的な支援というのは、支援側に余裕がある限りは行われるけれど、持続的ではないという危険をはらんでいます。支援している側も実は誰かに助けて欲しいんです。私たちの目標とするのは「誰一人取り残さないキャンパス」ですが、私も助けてもらいたいことばかりですし、自分が最も取り残されているのではないかと感じる瞬間もあります。

まず理解していただきたいのは、ダイバーシティという言葉が女性、障がいのある人々、LGBTQ+の方々のことだけを指しているのではないということ。さらに、一方的に支援する、あるいは一方的に支援されるだけの人間は存在しないということです。人の数だけ個性があるのだから、一人ひとりの輝き方も、必要とするサポートもその数だけ存在します。持続可能なダイバーシティ実現のためには、人々が互いに支援したり、されたりすることが必要です。ダイバーシティ共創センターも例に漏れず、特定の誰かを支援する機関ではないということです。

そして、真のダイバーシティを理解するために、「自分が誰かに救われている」ということを多くの方に体験し、気づいていただきたいと思っています。その気づきを得ていただくため、ダイバーシティ共創センターでは「共創セッション」を実施しています。共創セッションとは、年齢も属性も様々な人々が集まって自由に対話しながらともに、新しい価値を創っていく場のことです。

課題解決のための力を養うための機関となり、共闘したい

何か、課題に取り組む際は、「どこに本質的な問題があるのか」を見極め、「解決策を考える」プロセスが必要になります。ダイバーシティに関する課題の場合、所々で問題が起こっていることは分かっているけれど、解決策に結びつく本質的な問題には到達していない状態です。私は前任の大学でダイバーシティを担当していましたが、根本的な課題を解決したわけでもありませんし、自分自身、ダイバーシティの権威でもありません。私にできることは、存在している課題を自分なりの目線で様々な方向から検討して、問題の本質を探し出し、解決に向けてできることをコツコツやっていくことだと思っています。

ダイバーシティ共創センター開設のための準備期間の頃から、センターの職員や学生たちが私のところに来て「何をしたらいいですか」と聞かれることがありますが、実際にはまだ何をするべきかを模索している段階だと言えます。ダイバーシティに関して起こっている問題に対し、「~してはダメです」などとトップダウンで押さえつけても根本的に問題が解決するものではありませんし、それで済むのならダイバーシティに関する課題はとっくに解決しているはずです。だからこそ、私はセンター長として誰かに指示をしたり命令をするということはせず、学生、職員、教員と共に考えながら、解決の道を探りたいと思っています。

一方で、大学の様々なセクションを訪れ、ダイバーシティに関する悩みや問題、センターへの要望のヒアリングを私自身、足を運んで参加してきました。いわゆるボトムアップの課題解決方法です。話を聞いてみるとどのセクションも一生懸命工夫をして取り組んでいて頑張っていて、問題を放置しているところは一つもありませんでした。でも十分上手くいかなくて悩んでいるのをみると、全てをケアしてボトムアップの方法で課題解決に結びつけることもとても遠い道のりだと感じました。

そこで、私がセンター長としてやっていきたいのはボトムアップとトップダウンを合わせた方法です。現場の方の話に耳を傾けながら、ルールや規則で解決していく、ということが私の役割だと思っています。

「なぜ、センターがトップダウンでダイバーシティに関する問題に取り組まないのか?」という声もあります。センターは主体的に課題を解決するのではなく、課題解決に向け、みんなが必要な考えや力を身につけるために存在しています。大きな課題を解決するためには、誰か一人がその課題を解決しようとするのではなく、関係者が一丸となって、成功しているスポーツチームのように、立場も視点も越えて本気で取り組むことが必要です。これを私は「共闘」と呼んでいます。

流通経済大学の方々は、課題に取り組もうというモチベーションの高い方が多く、とても素晴らしいと感じています。課題が解決できて、キャンパスに変化が起きた時、立場や視点の異なる誰にとっても嬉しいことがきっと起こるはず。その先にある楽しみや喜び、新しい価値を理解して、学生、職員、教員全員が共闘する未来のために、私はこれからもできることにコツコツと取り組んでいきたいと考えています。

2023.06.19

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